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東京地方裁判所 昭和36年(行)33号 判決

東京都世田谷区南烏山六丁目二九番二号

原告

高橋兼義

右訴訟代理人弁護士

古関三郎

東京都千代田区大手町一丁目三番二号

被告

東京国税局長

山橋敬一郎

右指定代理人

中島尚志

青木正存

新保重信

磯部喜久男

右当事者間の標記事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

一  被告が原告に対し昭和三六年三月一五日付でした原告の昭和三二年分所得税についての審査決定を取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文同旨

第二当事者の主張

(原告の請求原因)

一  原告は、昭和三三年三月一四日世田谷税務署長に対し昭和三二年分の所得税につき総所得金額を四一三、八六〇円、所得税額を二四、二四〇円として確定申告し、さらに同年一二月二〇日総所得金額を六一九、八九七円、所得税額を七四、三四〇円過少申告加算税を二、五〇〇円として修正申告したところ、同税務署長は昭和三五年二月二二日付をもって総所得金額を二、〇二〇、八九七円、所得税額を五三七、〇二〇円、過少申告加算税を二三、一〇〇円とする旨の更正をした。原告は、同年三月八日付をもって右更正に対し、所得金額、所得税額、過少申告加算税はいずれも前記修正申告のとおりであるとして再調査の請求をしたが、同税務署長は同年六月七日付の決定をもって右請求を棄却した。そこで原告は被告に対し同年七月二日付をもって審査の請求をしたが、被告は昭和三六年三月一五日をもって右請求を棄却する旨の決定をした。

二  しかしながら、被告の決定は違法であるから取消されるべきである。

(請求原因に対する被告の認否)

一  請求原因一は認める。

二  同二は争う。

(被告の主張)

一  原告の係争年分の各種所得の金額及び総所得金額を被告主張額と原告の申告額(修正申告の額)と対比して示すと次のとおりである。

〈省略〉

一  被告主張額の算出根拠

1 事業(農業)所得及び譲渡所得について。

原告の申告額どおり。

2 不動産所得〈イ〉分及び雑所得について(本件争点に関係のない部分)。

原告の申告額のうち雑所得の金額三五〇、〇〇〇円は、土地の賃貸に伴い受領した権利金であり、右金額は旧所得税法(昭和三三年法律第二〇号による改正前のもの、以下同じ。)九条一項三号の不動産所得に該当するので雑所得の金額三五〇、〇〇〇円を不動産所得の金額として所得の種類のみ変更したものである。

したがって、不動産所得〈イ〉の金額は、原告が不動産所得として申告した金額一一二、九九七円と右の金額三五〇、〇〇〇円の合計額であり、区分を問わなければ原告の申告額どおりとなる。また賦課税額への影響もない。

3 不動産所得〈ロ〉分について(本件争点に関する部分)。

原告は、昭和三〇年中に訴外高山豊(以下「高山」という。)と博愛幼稚園共同出資経営契約を締結し、右契約に基づき、原告所得の東京都世田谷区鳥山町一八〇一番の八及び九の宅地四六七坪(以下「本件土地」という。)を提供し、幼稚園を高山と共同で経営していた。

その後、昭和三二年三月に至り、右幼稚園の共同経営契約は原告と高山との合意により解約され、以後は高山が単独で経営することとなり、昭和三二年三月一日原告と高山との間に改めて右幼稚園の敷地として使用されていた本件土地四六七坪について、賃貸借期間三〇年、地代月額坪当たり一〇円、権利金坪当たり三、〇〇〇円(総額一、四〇一、〇〇〇円、四六七坪に坪当たり単価三、〇〇〇円を乗じた額。)とする賃貸借契約が締結された。原告は、右の本件土地に係る賃貸借契約に基づき、昭和三二年三月三日権利金一、四〇一、〇〇〇円を受領した。

右権利金は、旧所得税法九条一項三号の不動産所得に該当するものであるが、原告はこれを昭和三二年分の所得として申告していなかったので原告の申告所得金額に加算したものである。

4 過少申告加最税について。

過少申告加算税については、旧所得税法五六条一項の規定を適用し、本件更正に基づき納付すべき税額に百分の五の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を賦課した。

5 なお、本件土地に関連して、原告と高山との間に次のとおり民事訴訟が係属審理されていたが、これらの民事訴訟はいずれも判決の確定により完結した。

この確定した判決によれば、いずれも本件土地について原告の主張は排斥され、高山が権利金一、四〇一、〇〇〇円を支払い、本件土地を適法に賃借したことが明らかである。

(一) 東京地方裁判所昭和三五年(ワ)第二五八一号建物収去土地明渡請求事件、昭和三八年八月二七日判決(控訴審東京高等裁判所昭和三八年(ネ)第二一七九号、昭和四六年三月九日判決。上告審最高裁判所第一小法廷昭和四六年(オ)第六〇四号、昭和五〇年四月二四日判決)

(二) 東京高等裁判所昭和三七年(ネ)第二八六四号借地権確認土地明渡請求事件、昭和五〇年七月三〇日判決(原審東京地方裁判所昭和三五年(ワ)第五三七三号、昭和三七年一一月二四日判決)

(被告の主張に対する原告の認否及び反論)

一  被告主張一のうち原告の申告額は認める。

二  同二の1、5は認めるが、同二の3、4は争う。

三  原告が訴外高山と昭和三〇年中に博愛幼稚園共同出資経営契約を締結し、共同で幼稚園を経営したことは認めるが、昭和三二年三月に至り、右幼稚園の共同経営契約を解除し、以後は高山が単独で経営することとなり、昭和三二年三月一日に右幼稚園の敷地四六七坪を高山に賃貸し、権利金一、四〇一、〇〇〇円を原告が高山から受領したことはない。

第三証拠関係

(原告)

乙第一号証の原本の存在は認める。同号証の原告名下の印影が原告の印章によるものであることは認めるが、その成立は否認する。その余の乙号各証の成立はすべて認める。

(被告)

乙第一号証、第二号証の一ないし三、第三号証の一、二を提出。

理由

一  請求原因一の事実は当時者間に争いがない。

二  そこで被告の本件審査決定の当否を検討するに、先ず、被告の主張にかかる原告の係争年分における各種所得の金額のうち、事業所得一一五、八二〇円及び譲渡所得四一、〇八〇円は当事者間に争いがなく、不動産所得〈イ〉四六二、九九八円は、原告において申告した不動産所得一一二、九九七円と雑所得三五〇、〇〇〇円の合計額と一致し、所得区分の違いだけで賦課税額への影響はないから右の点もその当否を判断するまでもないところである。

してみれば本件の争点は、不動産所得〈ロ〉一、四〇一、〇〇〇円の有無に尽きるというべきであるから以下検討する。

三  原本の存在について当事者間に争いのなく、そして、原告名下の印影が原告の印章によるものであることが当事者間に争いがないので真正に成立したものと推認すべき乙第一号証、成立に争いのない同第二号証の一ないし三、同第三号証の一に弁論の全趣旨を総合すると、原告は、被告主張の経緯のもとに昭和三二年三月三日本件土地に係る賃貸借契約に基づき、高山豊から権利金として一、四〇一、〇〇〇円を受領したことを認めることができる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、右権利金が旧所得税法九条一項三号所定の不動産所得に当ることは明らかである。

してみれば、原告の係争年分の総所得金額を二、〇二〇、八九七円と認定して原告の審査の請求を棄却した被告の本件決定は何ら瑕疵がないというべきである。

四  以上の次第で原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安部剛 裁判官 山下薫 裁判官 佐藤久夫)

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